「天地明察」 沖方丁 角川書店
囲碁がテーマ?
いや、和算がテーマ?
いや、天文(星)がテーマ?
いや、暦がテーマ?
いや、やっぱり、恋愛がテーマ?
この本の半分くらいまでは、いったいこの本のメインテーマは何なのか、よくわからず、話も数学中心で漢字が多く(笑)、読み進むのにけっこう苦労しました。半分くらいを過ぎると、この本の面白さがわかってきて、3分の2ほどを過ぎると、恋愛も前面に出てきて、一挙に読み進みました。結局、いろいろなテーマがごっちゃになって、天の理を明察するという一つのテーマに集約されていきます。
渋川春海という大和暦を作った人が主人公。どうやら実在の人物のようですね。この春海さん、碁をもって徳川家に仕える家に生まれ、でも算学が好きで、そして天文学に導かれ、正しい暦を作ることを一生の使命としていきます。この春海さんのキャラがいいですね。おおらかで、ふわっとしていて。弱虫で泣き虫で。
それから、影の主人公が、えん。春海さんが恋する相手。いつも春海さんをしかってばかりいる武家の女性。この、えんさんが、すごく生き生きしていて、この小説の縦軸を担っています。春海さんをどんどん導いていくというか。でも、春海さんとえんさんはすぐに結ばれるわけではないのです。
いろいろ周り道をして、そして、定めに導かれるように春海さんとえんさんは結ばれることになるのですが、春海さんがえんさんに結婚を申し込むシーンが好きですねえ。天地明察とは、実はこの二人の組み合わせのことではないかと思ってしまう。人の縁というのは、いつもまっすぐストレートとは限らず、時に巡り巡って結局そうあるべき所におさまる・・・というものではないかと思います。
主人公、渋川春海が
「星はときに人を惑わせるものとされますが、それは、人が天の定石を誤って受け取るからです。正しく天の定石をつかめば、天理暦法いずれも誤謬なく人の手の内となり、ひいては、天地明察となりましょう。」
と述べています。
一方、新しい暦を定めるということは、前の暦を廃するということで、そこには政治的戦いもからんできます。後半は江戸城を巻き込んだかなり大掛かりな政治的展開もみせます。
時代小説なのですが、科学的でもあり、政治的でもあり、算数小説でもあり、恋愛小説でもあり、不思議な魅力を持つ作品でした。