「陽炎」朝戸夜 アスキー・メディアワークス
新選組の沖田総司を主役にしたラブストーリーです。いまどきのワカモノ向けに新選組を書いたらこうなるかな~。女子が「こういう総司くんであってほしい!」という理想をつぎ込んだような沖田総司が読めます。沖田総司好きの女子には必読モノでしょう。
美男の土方歳三様も出てきますが、主役は沖田総司ですからね。いえ、本当の主役は、沖田総司の相手役、凪ちゃんですが。
文章が口語調で、和田竜さん(「忍びの国」の)の文章と似ていますね。今風の軽口で軽快な文章。こういう作品もあっていいかな、と思います。ワカモノにはこういう文章の方が読みやすいのかもしれない。文字も縦書きではなく、横書きでした。
しかし。ワカモノ向けのライトノベルと侮るなかれ。これは泣けます。私はラストに向かって号泣。沖田総司くんは労咳で血を吐いて病み衰え、千駄ヶ谷で一人さびしく死ぬ。これが沖田総司の運命なわけですが、そこに至るまでの過程を、恋人の凪ちゃん(近藤周斎先生の奥さんの姪という設定になってます)を絡ませて丁寧に描き、そして最期を迎えるシーンも感動もの。
なぜ、総司君が死ぬのに感動するのかは、ネタバレになってしまうので書きませんが、こういう創作は新選組モノを読み漁っている私もいままで読んだことがないです。フィクションなわけですが、私はこういうフィクションだったらすごくいいなあ、と思いました。
総司君がわがままで、一途で、ひねくれてて、でも純で、やきもちやきで。少女漫画の世界の総司君ですね。でも、読んでいてすごく楽しいです。途中でやめられない、止まらない、かっぱえびせんストーリーです。
総司くんが凪ちゃんに自分が労咳であることを告げた花火の夜。
二人が初めて肌を重ねた夜。
このシーンが、とっても素敵に書かれていました。上・下巻ですが、下巻の方が圧倒的に内容濃く、表現もうまくなっています。
総司くんが凪ちゃんにいうセリフが切ない・・・。
土方歳三様についていえば、美男で口が悪くてすけべで、でも闘う男として描かれています。これはこれでよかった。もう少し、歳三様と総司君の絡みがあればよかったけれども。
実は、この小説の真骨頂は、沖田総司くんが死んでしまった後ですね。総司くんを失い、凪ちゃんは泣き悲しみ・・・で終わらないところがユニーク!こういう展開ですか!?と私はびっくり。凪ちゃん、がんばります。
一つ言わせていただければ、タイトルの「陽炎」。凪ちゃんがたくましすぎて、実体ありすぎて、どうも陽炎のイメージとは程遠い・・・。むしろ正反対のイメージですからねえ。違うタイトルのほうがよかったんじゃないかな?「薫風」とか「陽光」とかのほうがイメージにあう感じがしました。